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FeRAMをもっと知る
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2024.9.26

FeRAMの製造技術革新:アニール工程の酸素添加の精密制御

アニール装置が大気リークしているんですけど?、高性能FeRAMのはじまり

FeRAMは、不揮発性のメモリ技術であり、高速で低消費電力の特性から、さまざまな電子機器に利用されていますが、その性能は時代とともに向上してきました。ここでは、製造におけるアニール工程での酸素添加が性能に与えた影響について見ていきます。

FeRAMとは何か?

FeRAM(1)は、不揮発性メモリとして使用されます。PZT(2)強誘電体膜を使ったメモリ素子が特徴で、これにより高速かつ低消費電力でのデータの読み書きが可能です。パソコンやスマートフォン、IoTデバイスなど、さまざまな電子機器に利用されています。

(1)FeRAM : Ferroelectric Random Access Memory 強誘電体メモリ 

(2)PZT  : lead zirconate titanate チタン酸ジルコン酸鉛 

開発当初でのPZT強誘電体膜の結晶配向性の問題

アニール装置は、FeRAMの製造プロセスで重要な役割を果たします。この装置は、Arガス雰囲気で高温の熱処理がされて、PZT強誘電体膜の結晶化を制御するために使用されます。

当社のFeRAMは開発初期に、米国の会社と共同開発をしていました。開発初期段階で、日本と米国の製造工程において、同じArガス雰囲気で処理しているにもかかわらず、結晶配向性に違いが見られ、特に日本では問題が発生していました。

日米のエンジニアの調査と知見の共有

日本と米国のエンジニアが協力し、問題の原因を究明するために調査を行いました。日本での調査では、Arガス雰囲気に多くの酸素ガスを添加するとPZT結晶配向性が悪くなり、酸素ガスがPZT結晶配向性に影響することが判明しました。ほぼ同時期に、米国ではアニール装置の大気リークが判明し、Arガス雰囲気で処理しているつもりが、実は微量の酸素が添加されていることがわかりました。これらの調査結果を統合することで、微量の酸素添加がFeRAMの性能向上に繋がることが示唆されました。

高性能FeRAMの実現

酸素添加によるFeRAM性能向上の効果を確認するため、詳細に酸素添加量を変化させた実証実験が日本で行われました。その結果、微量の酸素添加により綺麗な柱状PZT結晶が成長して、且つ結晶配向性が改善し、FeRAMの性能が大幅に向上することが確認されました(3),(4)。また、酸素量は少なすぎても多すぎてもだめで、ある最適な値を持つことがわかりました。

図 PZT結晶化アニールの酸素濃度と、PZTの結晶性およびスイッチング電荷量の関係、(a)PZTの表面、断面形状の走査型電子顕微鏡像、および(b)PZT結晶配向率とスイッチング電荷量の酸素濃度依存性

アニール処理時に微量の酸素を精密に制御する新たな製造プロセスを用いて、高性能FeRAMの製造が実現されました。

(3)彦坂幸信, 恵下隆, “FRAM/CMOS論理LSI混載技術 応用物理 ”, 応用物理 71(9), pp.1120 – 1125, 2001

(4)W. Wang, K. Nomura, H. Yamaguchi, K. Nakamura, T. Eshita, S. Ozawa, K. Takai, S. Mihara, Y. Hikosaka, and M. Hamada, “Control of La-doped Pb(Zr;Ti)O3 crystalline orientation and its influence on the properties of ferroelectric random access memory ”, Jpn. J. Appl. Phys Vol.56 10PF14, 2017

まとめ

米国の装置が大気リークした「偶然」と、日本でのきめ細かな調査解析の「必然」が組み合わさって、高性能FeRAMの歴史がはじまりました。