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FeRAMの車載向けEDRへの採用事例
1/100秒の真実を捉える:FeRAMの高速書込みが自動車事故直前の情報を逃さない
エアバッグの電子制御ユニット(ECU)内のイベントデータレコーダー(EDR)でもFeRAMが利用されています。FeRAMはを利用することで、EDRの規定を満たし、事故の原因究明に役立つ詳細なデータの記録・保持が可能です。
目次
EDRとは
イベントデータレコーダー(EDR)は車載型の事故記録装置で、エアバッグの電子制御ユニット(ECU)に内蔵されます。衝突事故などのイベント発生の前後の時間に速度などの車両データを記録する機能です。下図のように事故の瞬間の5s前からエアバッグの展開が完了するまで、車両速度等の情報を時系列で不揮発性メモリに記録します。
FeRAMの特徴と利点
事故の原因究明に役立つ詳細なデータの記録
EDRは不測の事態の前後にデータの書き込みを高速で行う必要があります。カメラやセンサが事故を検知する5秒前には書き込みを開始し、事故で電力を喪失する前には書き込みを完了し、データが保護された状態に持っていくことが理想となります。それを実現するために常時データの書き込みが可能で、電源が落ちる前のごく短い時間に書き込みを完了できるFeRAMが最適です。また、EDRのデータ書き込みには書き込み時間のみならずデータサンプル数にも推奨値(最大で100サンプル/s)が設定されています。データの書き込みにFeRAMを使用することで事故前後のデータを正確に記録し、事故後の捜査や原因究明に貢献します。
下図は1秒に1回のサンプル数の場合のEDRのデータ例です。車両速度が1秒ごとにしか把握できないうえ、ブレーキの正確なタイミングがわかりません。
EDRが記録するデータには速度の変化、速度表示、アクセルペダルの位置、ブレーキのオン/オフが含まれます。これらのデータを事故後に回収して解析することで、事故直前の運転手の行動、助手席と後部座席の状態、車両全体の状態を明らかにすることが出来ます。
下図は車両速度を100サンプル/s、それ以外のデータを10サンプル/sで記録した場合のデータのイメージです。車両速度を10ms刻みで記録することにより車両情報が明確になります。またブレーキ動作状況がより細かく把握できるようになり、ドライバーの事故発生時の回避行動を正確に知ることができます。
以下、国土交通省のJ-EDRの技術要件より引用。文書内においても不揮発性メモリを使用する旨が書かれており、ある程度のデータサンプル率とメモリに書き込まれたデータの改ざん防止が求められます。FeRAMであれば両方の点で要求を満たすことが可能です。
4.1.3 J-EDR は、以下のいずれかに該当する場合にデータ要素を捕捉し、記録するものとする。 (1)エアバッグ展開を伴う事故の場合は、2件以内を限度として新しい事故データを捕捉し、記録する。その後、記録された事故データは上書きされてはならない。 (2)起動閾値(150msecの間隔内で車両速度変化8km/h以上)又は自動車製作者によって定められた起動閾値を超え、エアバッグ展開を伴わない事故の場合は、以下を条件として、2件以内を限度として新しい事故データを捕捉し、記録する。 (i)前のエアバッグ非展開事故データが記録された不揮発性メモリーの空容量が利用可能ならば、新しいエアバッグ非展開事故データを記録する。 (ii)前のエアバッグ非展開事故データが記録された不揮発性メモリーの空容量が利用不可能ならば、自動車製作者は、新しいエアバッグ非展開事故データを上書きするか、記録しないかのどちらかを選択してよい。 (ⅲ)エアバッグ展開事故データが記録された不揮発性メモリーは、新しいエアバッグ非展開事故データによって上書きされてはならない。 4.2 データ改ざん防止 不揮発性メモリーに記録されたデータは、消滅せず、かつ、変更されないこと。
電源が切れる最後の瞬間までのデータが利用可能
FeRAMは書き込み耐性が高く、データバッファとして最適です。MCUが動作中のイベントを連続してFeRAMに記録し、FeRAMは不揮発性のため電源が切れてもデータは保持されます。したがって、電源が壊れても最新のデータは失われません。FeRAMに直接データを書き込むことで、SRAMからEEPROMやフラッシュメモリにデータを転送する手間が省けます。これにより、最後の瞬間までデータを保持するための追加の電力は不要となります。
1Mbit SPIの場合のイメージを以下に添付します。産業用途でよく使用される1Mbit SPI のFeRAMと、EEPROM、NOR FLASHのデータシートを比較するとサイクルタイムはそれぞれ120ns、5ms、0.4msです。正常動作から電圧降下が起こり、メモリ動作不可能な電圧まで降下するまでの想定される時間を数msとすると、この間にEEPROMは1回、NOR FLASHは数回のログ取得しか出来ないのに対し、FeRAMは数千回可能な計算になります。またFeRAMには衝突が起こる直前の、電圧が最小動作電圧より小さい時間には誤書き込み防止のためログ取得を中断しますが、きめ細かにデータを取得しているため直前までの正確なデータが取得できます。EEPROM、NOR FLASHの場合、FeRAMより直前のデータが粗くなるほか、最小動作電圧より小さいときにデータ書き込みを完了し、一部データが誤ってしまう恐れがあります。
補足:NOR FLASHは1ページ(256Byte)単位で連続して書き込む場合、最小セクタ(4KByte)ごとに30msかけてデータを消去してから書き込まなければなりません。
J-EDRの規定に適合する高性能な不揮発性メモリ
国土交通省は規定に適合するEDRをJ-EDRとして搭載を促進しており、不揮発性メモリはその技術要件の中でも特に重要なキーワードとして扱われています。「車載装置より伝達された動的、時系列データ等を電磁的に記録し、保持する部品で合って、データ等の保持に電源を必要としないもの」が求められています。一般に不揮発性メモリに分類されるEEPROMやFLASHメモリより優れた高速書き込み、高書換耐性を実現し、電源を断ち下げてもデータ保持が可能なであるFeRAMはEDR用途に適しているといえます。
EDRとして必要な取得データを保持できる容量
また多くのEDRの規格で定められている基本的な取得データには、前後方速度変化、車両の表示速度、アクセルペダル位置、ブレーキペダル位置、エンジン始動回数、シートベルト状態、警告ランプ状態などが含まれます。速度に関しては100サンプル/s、それ以外のデータには2サンプル/sというサンプル率が推奨され、これらの記録には64Kbit~4MbitをカバーするFeRAMの容量で対応が可能です。
J-EDRに要求されるデータ要素のうち1秒あたりのサンプル率が設定されているものは以下の通りです。(国土交通省のJ-EDRの技術要件3ページより引用)
- 前後方速度変化: 100サンプル/秒
- 車両の表示速度: 2サンプル/秒
- スロットル位置: 2サンプル/秒
- ブレーキのオン/オフ: 2サンプル/秒
各データサンプルのサイズを大きく見積もって1バイトとします。これらを衝突前の5秒間記録すると必要な容量は以下となります。
500+10+10+10 = 530 Byte = 4240 bit
ここに以下のデータ要素が書き込まれることになります。
- 前後方向速度の最大変化
- 最大変化が生じるまでの時間
- イグニッションサイクル、衝突
- イグニッションサイクル、ダウンロード
- 安全ベルトの状態、装着/非装着
- 全部エアバッグ警告ランプ、オン/オフ
- エアバッグ展開までの時間