FeRAMをもっと知る
FeRAMの製造技術革新:PZT強誘電体キャパシタの保護技術
豆腐のように崩れるPZT結晶構造、強誘電体キャパシタを守る強い味方
FeRAMの中核をなすのが、PZT強誘電体膜であり、この膜を利用した強誘電体キャパシタがメモリ素子として機能します。製造工程で必要な高温処理等からこのPZT強誘電体キャパシタを保護するため、様々な施策が試みられ、保護技術が確立されました。
FeRAMの製造工程概要
FeRAM(1)の製造は、まずFEOL(Front End of Line)工程でトランジスタや抵抗素子などの基本的な部品を形成します。次にフェロ工程では、PZT(2)強誘電体キャパシタが形成されます。そして、最後のBEOL(Back End of Line)工程では、金属配線や配線間コンタクトが形成され、完成品となります。
(1)FeRAM : Ferroelectric Random Access Memory 強誘電体メモリ
(2)PZT : lead zirconate titanate チタン酸ジルコン酸鉛
PZT結晶構造の劣化
FeRAMの製造工程で必要な高温処理により、PZT結晶構造が劣化する問題が生じます。特に、高温かつ還元雰囲気下での処理により、水素や水の拡散が引き起こされ、PZT結晶のPb原子やO原子が引き抜かれ、結晶構造が不完全なものとなります。この状態では、FeRAMの信頼性や耐久性が著しく損なわれ、製造上の大きな問題となります。1999年頃の量産初期段階ではこの問題が顕著で、当時社内では「豆腐のように崩れるPZT構造」と揶揄されることもありました。
PZT強誘電体キャパシタの保護施策
この問題に対処するために、PZT強誘電体キャパシタを保護するための主に二つの施策を試みました。
- 上部電極の材料や組成を制御して、劣化耐性を強化する。
- 強誘電体キャパシタ周囲に保護膜を配置して、劣化耐性を強化する。
1. 上部電極の材料を白金(Pt)からイリジウム酸化物(IrOx)に変更することで、水素による劣化耐性が大幅に向上しました(4)。さらに、IrOxの酸化度を最適化することで、よりロバストなプロセスを実現しました(5)。
(4)高井他、” スパッタPZTを用いた0.5ミクロン強誘電体メモリーの開発(2)~Pb濃度のIrO2/PZT/Ptフェロキャパシタ特性への影響”秋季応用物理学会, 2000
(5) 特許第4827653号
2. PZT強誘電体キャパシタの周囲を3重に水素バリア膜で囲むことでも、水素による劣化耐性が大幅に向上しました(6),(7)。この技術を用いることで、キャパシタ面積が0.4 um2のFeRAMを製造することが可能となりました。
図3 3重水素バリア構造をもつFeRAM
(a) 上面図、(b) (a)図のX-X’方向の断面図
(6) H. Saito, T. Sugimachi, K. Nakamura, S. Ozawa, N. Sashida, S. Mihara, Y. Hikosaka, W. Wang, T. Hori, K. Takai, M. Nakazawa, N. Kosugi, M. Okuda, M. Hamada, S. Kawashima, T. Eshita, and M. Matsumiya, IEEE Int. Memory Workshop 2015
(7) Takashi Eshita, Wensheng Wang, Kenji Nomura, Ko Nakamura, Hitoshi Saito, Hideshi Yamaguchi, Satoru Mihara, Yukinobu Hikosaka, Yuji Kataoka and Manabu Kojima, “Development of Highly Reliable Ferroelectric Random Access Memory and its Internet of Things Applications”, Jpn. J. Appl. Phys Vol. 57, No.11S, pp. 11UA01-1-5, 2018
保護技術の確立による性能・信頼性向上
これらの施策を組み合わせることで、高温環境下でも信頼性が確保されるFeRAMの製造が実現しました。これにより、市場での競争力が向上し、FeRAMの性能と信頼性が向上しました。
まとめ
PZT結晶構造の保護技術は、FeRAMの製造において重要な課題です。当社は様々な施策により、FeRAMの性能と信頼性を向上させ、今後の技術革新に向けた基盤を築き上げました。